漫画とかアニメ、美少女ゲームでの”ベタ”なシチュエーションで、「お金持ちのお嬢様がファーストフード店のハンバーガーや、カップラーメンを食べて、その美味しさに感動する」というシークエンス、あるかと思います(上のサムネイル画像や下のキャプションは、アニメ『三者三葉』で描かれたお嬢様キャラの主人公が、ハンバーガーを食べるシーン)。
温室育ちでセレブなキャラクターが、庶民の食べ物を初めて口にすることで、その素朴な美味しさに驚く……という”ギャップ萌え”を意識した描写であり、様々な作品で目にしますが(個人的に、この手の描写で真っ先に連想するのは、『マリア様がみてる』の『ファースト・デート・トライアングル』でしょうか?)、実際に、こんなことってあるのかな? と疑問に思っている方も多くいらっしゃるかと思います。
食品添加物まみれで、かつ、チープな食材を使用したチェーン店のハンバーガーや、インスタント食品に、舌の肥えたご令嬢が感動することなんてありえるのか? と。
これは、あくまで個人の意見ではありますが、その問いに対しては、断固として「ある!」と答えたいと思います。何だったら、「ある! ある! ある!」と往年の人気クイズバラエティ番組『クイズ100人に聞きました』ばりに、食い気味に答えても良い程です!
……流石に、番組名が古過ぎて、30オーバーの人間にしか伝わりませんか、『クイズ100人に聞きました』は。
何故、自分が、そこまで確信を持って、この問いに答えられるかというと、それは、日本のプロレス史にその名が燦然と輝き続ける、スターの中のスターであり、プロレス界のレジェントである”世界の巨人”ジャイアント馬場、その人の存在があるからです!
ジャイアント馬場さんの意外な大好物
馬場さんといえば、圧倒的な巨体と元読売ジャイアンツの投手という抜群の身体能力を評価されて、日本プロレスに入門し、武者修行先のアメリカでは、東洋からやって来た稀代の日本人ヒールレスラー”ショーヘイ・ビッグ・ババ”、”ババ・ザ・ジャイアント”として現地のファンを震え上がらせた逸材中の逸材。
帰国後は、アントニオ猪木さんとのタッグ「BI砲」で、力道山先生亡き後の日本プロレスを牽引し、団体の分裂後は、全日本プロレスの社長兼エースレスラーとして、ライバルである猪木さんと共に、長年に渡って、”プロレス”の象徴であり続け、巨万の富を得た偉大な存在……つまり、本物のセレブなわけです。
これも、プロレスファンには有名な話ですが、プロレスラーとして成功した後に、古巣である巨人軍の最高額プレイヤーな某選手の年俸をスポーツ新聞で知り、「何だ、そのぐらいしか稼いでいないのか」と呟いたらしい……という都市伝説もある程、プロレスで大金を稼いでいたお金持ちだったんです!
そんな馬場さんに、意外な大好物があったことをご存知でしょうか? 実は、馬場さん……マクドナルドのフィレオフィッシュが大好きだったんですよ!
ジャイアント馬場さんが愛したフィレオフィッシュと、馬場=萌えキャラ説
馬場さんの付き人であった越中詩郎選手や、元全日本プロレスの所属選手の口から度々、語られるこの逸話。
HOT PEPPERが運営しているWEBサイト『メシ通』の名物企画『レスラーめし』でも言及されているので、興味がある方は、是非とも、全文を読んでいただきたいのですが、該当部分を引用させていただくと……。
── やっぱり馬場さんだと、まわりも高いお店にしか連れて行かないんでしょうね。
越中:ただ、ひとつ面白い話があってね。北海道の巡業の時だったと思うんですけど、試合が終わってすぐ移動しなきゃいけない日があったんですね。それで付き人の自分とスタッフと馬場さんで、バンかなんかで移動して。それで途中で腹減ってきたんですけど、北海道だから行けども行けどもめし食うところが見つからないんですよ。
── さすが北海道ですね。
越中:そしたらマクドナルドがポツンとあったんです。それで僕らは腹減ってるから「馬場さん、他になにもないからマクドナルドで我慢してください」って言ったんですけど「いやだ」って言うんです。
── そういうところはかたくななんですね、馬場さん。
越中:それで僕らには「食べていい」って言うんですけど、あきらかに馬場さんの機嫌が悪いんですよ(笑)。「おれはそんなの食わない!」って言って。それで、フィレオフィッシュってあるじゃないですか、あれを出して「とにかく試しに食ってみてください! お願いします!」って言って渡して、馬場さんもフィレオフィッシュひとつでさんざんゴネたんです。「なんだこんなもん」みたいな。でもこっちも必死で食べてもらおうとお願いしてね。で、なんとか食べてくれてね。「……こんなうまいもんはない」って(笑)。
ド演歌ファイター・越中詩郎の「ジャイアント馬場さんと食べた思い出のフィレオフィッシュ」【レスラーめし】
フィレオフィッシュの美味しさに驚嘆するジャイアント馬場!
このエピソード、補足をすると、要は、若い頃にアメリカ遠征を経験している馬場さんにとって、マクドナルドみたいなハンバーガーチェーン店というのは、プロレスで食えない三流レスラーが行くチープなレストランだったわけです。
馬場さんは、良くも悪くも、レスラーの”格”というものを最重要視する人ですから、「アメリカでも日本でも成功した俺なんだから、恥ずかしくて、マクドナルドの商品なんか食べられないよ」と。ところが、越中さんの説得を受けて、渋々、食べてみたらこれが驚くほど、美味しかった! という話らしいんですね。
このエピソードは、『週刊プロレス』に掲載された越中さんと天龍源一郎さんの対談企画で、更に、詳しく語られていて、この後、馬場さんはフィレオフィッシュをいたく気に入って、自分でお店まで買いに行こうとしていたそうです。それを越中さんが「流石に、馬場さんがマクドナルドにいるのはマズいので、止めてください! 自分が買いに行きます!」と、毎回、お遣いに行っていたとか。
もう、このシチュエーション、まんま、エントリの頭で言及した「ファーストフードやインスタント食品を食べて感動するお嬢様キャラ」そのものだと思うんですね。ジャイアント馬場=萌えキャラ説!
元全日所属レスラーが語る、馬場さんの庶民的な食の好み
実際、馬場さんの食に対する意外と庶民的な感覚というのは、この他にもアチコチで語られていて、今年、出版されたタイガー戸口さんの自伝『虎の回顧録』の中でも、こんな描写が出てきます。
全日本のツアーに参加するようになってから、馬場さんが、ため息交じりに俺に言ったことがあるんです。
「お前ら、いいよなぁ」
って。「何で、ですか?」って訊くと。
「お前らは、一膳飯屋へ入れる」
「一膳飯屋ですか?」
「お前ら、どんなところに行っても、一膳飯屋へ入って、うまいもんが食える。俺は、場所を決めて食わなくちゃいけない」
って。やっぱり、メンツがあるじゃないですか。ジャイアント馬場だから。俺らだったら、まだ若い衆だから、一膳飯屋へ行って、何でも自分の好きなもの食うじゃないですか。でも馬場さん、それができないから、つらかったみたいで、結構ぼやいていましたよね。
タイガー戸口『虎の回顧録 昭和プロレス暗黒秘史』(徳間書店)
一膳飯屋……今の言葉で言ったら「食堂」とか「定食屋」ですよね。馬場さんは、スーパースターなので、気軽に入れる格安の定食屋でご飯を食べるわけにはいかない。周囲の目を気遣って、高級ホテルのラウンジレストランとかで食事をしなければいけない。でも、やっぱり、それが窮屈だった……と、当時の若手選手にこぼしていたらしんです。庶民の食事に憧憬を抱く、ジャイアント馬場!
昭和のプロレス界が生んだ空前絶後のスター選手である馬場さんだからこそ、逆説的に抱えざるをえなかった食に対する鬱屈と言えるでしょう。
ハンバーガーを食べて感動するお嬢様、実在する説
インターネットを見ていると、「実際に、生粋のお嬢様にハンバーガーを食べさせてみたら、即座に吐き出し、その後、一口も手を付けなかった。ファーストフードやインスタント食品に感動するセレブとか、やっぱり、空想でしかない」みたいなツイートがバズっていて、目についたりするわけですよ。
そりゃ、現実のセレブは、幼い頃から美味しいものを食べ慣れているのだろうから、現実は、そうなのかもしれませんが、ただ、自分なんかは、前述の馬場さんのエピソードとかを読む限り、「あながち嘘でもないんじゃないか?」とも思うわけです。
勿論、馬場さんの場合は、生まれついての大金持ちというわけではない(寧ろ、幼少期は決して裕福とはいえない家に生まれ、経済的にも苦労をしたと言われています)という出自を考慮に入れるべきかと思いますが、それでも、やっぱり、「お金持ちだからこそ、庶民の味に憧れる」というのは、一種の夢があるストーリーだと思うのです。フィレオフィッシュが好きだったという馬場さんの意外な食の好みが、こんなにもプロレスファンの心を掴むように。
馬場さんのエピソードを起点にフィクションに夢を見る……そんな視点もアリなんじゃないですかね?
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