大人気ゲームアプリ『ウマ娘 プリティーダービー』。先日の更新で、新たにナカヤマフェスタのSSRサポートカードが実装された。
「[43、8、1]」と名付けられたこのカード。『ウマ娘』は、遊んでいないけれど、このゲームがきっかけで、競馬にハマり、そして、このウマ娘のモデルになった史実馬のことが大好きになった自分みたいな人間にも思わずグッとくるイラストで、兎に角、素晴らしいのだ。
何がどう素晴らしいって、カッコ良くて、美しくて、エモーショナル。そのエモーションの源流に、”ナカヤマフェスタ”という競走馬が歩んだ競技人生が、キチンと反映されているのが良い。
“期待されていなかったステゴ産駒”ナカヤマフェスタの物語
“にわか競馬ファン”なりに、ナカヤマフェスタというウマについて、自分が知っていることを書いてみよう。
父は、三冠馬として知られる”金色の暴君”オルフェーヴルを筆頭に、オルフェの全兄であるドリームジャーニー、”不沈艦”ゴールドシップ、”ジャンプ王”オジュウチョウサン、春天連覇の”怪物”フェノーメノ、”マイル巧者”インディチャンプ……といった数々のG1勝利馬を輩出した名種牡馬、ステイゴールド。
そんな偉大な父から生まれたフェスタなのだから、さぞかし生まれた時から期待されていたのだろう……と思いきや、セレクトセール(競走馬のセリ市)では、1,000万円という割と安価で落札されたらしい。
後に、競走馬の歴史の中で大きく花を開くことになるステイゴールドの血を受け継ぎつつも、この時点では、余り、期待と注目を集めてはいなかったのだろう。
■ナカヤマフェスタ | 競走馬データ(netkeiba.com)
実際、3歳クラシックでは、皐月賞は8着、菊花賞は12着。東京優駿(日本ダービー)は、掲示板にこそ名前が載ったものの、馬券対象外の4着。三冠戦では、特に目立った成績を残せていない。各種有料動画サイトで、当時の映像を観ることが出来るが、その走りっぷりを観ていると、G2、G3は勝てても、G1制覇には、手が届かないウマ……そんな印象を受ける。
というか、ナカヤマフェスタを筆頭に、彼と同期な牡馬たちは、どこかパッとしない。これは、フェスタと同じく、『ウマ娘』でキャラクター化されたトーセンジョーダン(体質の弱さから、クラシック三冠を全休という形で棒に振った)も然りだ。
一方で、彼らと同じく2006年に生を受けた競走馬の中でも、”花形”と言えるスーパースターがいた。父はスペシャルウィーク、母にビワハイジという血を持つ牝馬、ブエナビスタである。
“同期の花形”なスーパーホース、ブエナビスタ
ブエナビスタは、デビュー戦こそ、3着だったものの、2戦目で初勝利を挙げた後は、阪神ジュベナイルフィリーズ、チューリップ賞と重賞を連覇。その勢いを駆っての牝馬三冠では、桜花賞と優駿牝馬(オークス)を制覇し、二冠を達成。その馬名の通り、勝者のみが観ることが出来る”絶景(buena vista)”の中を走り続けてきた名牝馬だ。
ここで、話は、『ウマ娘』に戻る。今一度、「[43、8、1]」のカードイラストを見てみよう。
スポットライトと観客からの称賛を全身に浴び、”光”の中で輝くウマ娘に対し、”陰”にいながら静かに、その闘志を燃やすナカヤマフェスタ。
この光の中にいるウマ娘のモデルは、恐らく、ブエナビスタなのだろう。彼女の馬具は、黄色を基調としていた。そして、この背景にいるウマ娘が身に纏っている勝負服のカラーリングも黄色。3歳時に、牝馬二冠の超新星として、早くから栄光の中にいたブエナビスタと、クラシック戦線で何も良いところがないまま無冠に終わったナカヤマフェスタ。そんな対照的な2頭が歩んだ競技戦績を絶妙な技巧で視覚化した本当に素晴らしいイラストだと思う。
史実馬、ナカヤマフェスタのファンは、このイラスト一枚だけで、思わず心が震える。そして、その情緒を更に加速させてくれるのが、その後、この二頭が直接相まみえたレースである2010年の宝塚記念の結末なのだ。
2010年宝塚記念、”光”と”陰”が交錯した、その瞬間……
ファンの人気投票によって、出走する競走馬が決まるグランプリレースである宝塚記念。2010年の人気投票1位は、当然の様にブエナビスタ。対して、ナカヤマフェスタの順位は、”43位”だった。下位人気も下位人気、他の上位人気馬の出走回避や棄権が無ければ、阪神競馬場の舞台に立つことすら叶わなかっただろう
当然、馬券の人気も低く、この日、出走した17頭の中の”8番”人気。一番人気なブエナビスタに続いて支持を集めたのは、この年の春天を制していたジャングルポケット産駒のジャガーメイル、G1の冠にこそ未だ手が届かないものの、安定したレース運びを見せるアーネストリーといったメンツ。
同期なスター牝馬の影に隠れたフェスタは、穴馬も穴馬。誰からも期待されていなかった。しかし、そんな、穴馬がこの日のレースで見せたのは、一世一代の大勝負だった。
出走直後からずっと良い位置に付けていたフェスタは、終盤、先団まで一気に進出すると、叩き合いをしていたブエナビスタとアーネストリーの2頭を外から一気にまくり、そのまま”1着”でゴールイン。父親譲りの末脚を爆発させ、初のG1制覇を成し遂げたのだ。
[43、8、1]。人気投票は43位。馬券は8番人気。そんなナカヤマフェスタが、この日、デビュー以来、差が開きっぱなしだったブエナビスタを向こうに、1着の栄冠を勝ち取った。
乗り換えによって、前走から新コンビを組んだ柴田善臣ジョッキーとの折り合いが上手くついたこと(フェスタは、ステイゴールド産駒の中でも、特に気性難が酷かったらしい)、ブエナビスタの横山典弘騎手が横に並んだアーネストリーに気を取られていたこと、この日の阪神競馬場が、午前中に降ったという雨の影響から稍重だった(ステイゴールド産駒は、遺伝的に、重い馬場に強い傾向がある)こと、こちらも本命馬の一頭だったドリームジャーニーが出走直後に大きくよれたこと。
様々な要因が重なっての偶然の勝利だったのかもしれないし、フェスタが内に秘めていた、そもそもの資質と才能が遂に開花しての必然の勝利だったのかもしれない。競馬初心者の自分には、そこは分からない。分からないけれど、このレースを初めて観た時、自分は、泣いた。感動して泣いた。
産まれた瞬間から、一切、周囲に期待されていなかった競走馬が、同い年の花形スターを相手に、大逆転劇を演じる……という”物語”が余りにも完璧で、尚且つ、ドラマティック過ぎて、競馬のレースを観て泣いたのだ。未だに、トップクラスで大好きな試合なのです。
競馬の魅力を教えてくれたオルフェーヴルとナカヤマフェスタ
ナカヤマフェスタという競走馬が歩んだドラマティックな運命を、一枚のイラストに落とし込み、巧みに再現してある。それが、自分が、『ウマ娘』の「[43、8、1]」というカードイラストに抱いた”美しさ”の源泉だ。
そして、ナカヤマフェスタは、この奇跡の宝塚記念制覇後、更に、それを上回る劇的なドラマを生み出すことになる。
その辺りは、『ウマ娘』におけるフェスタの個別シナリオと育成シナリオで描かれるのだろう。興味がある方は、ちょっと検索して調べてみてください。宝塚記念での激走は、決して”フロック勝ち”では無かったのではないか……そう思わせてくれる、ナカヤマフェスタにとって最初で最後のG1制覇となった、このレースを超える感動が、そこには、待ち構えているのだから……。
個人的な思い入れになるのだけれど、競馬に興味を持ち始めて、一番最初に好きになったのは、スーパースターホースのオルフェーヴルだった。
オルフェーヴルのレースを後追いながらも、動画サイトで視聴した時、「こんなに美しくて、こんなにカッコ良くて、こんなに強くて、こんなに愛嬌がある馬がいるのか!」と驚愕した。そして、そんなオルフェーヴルと同じ父を持つ”名馬”として、名前を知ったのが、ナカヤマフェスタだった。
そんなフェスタの宝塚記念を観て、号泣した。高揚感と残酷さと、歓喜と悲劇と、競走馬の美しさと人間の醜さと、両極端なアンビバレンツを併せ持つ、”競馬”という沼にハマるきっかけをくれたのは、確実に、オルフェーヴルとナカヤマフェスタ、そして、その父であるステイゴールドと、更に、そのルーツであるサンデーサイレンスの存在だ。
そこから、競馬の歴史について知りたくて『ウイニングポスト』にハマったし、ゲームの中では、サンデーサイレンスの血を引く競走馬たちを中心に育てた。そして、”血統”という概念を知り、そこから、各名馬たちが歩んだ物語を辿る……そんな楽しみ方を知った。競走馬のことが更に、大好きになった。
だからこそ、『ウマ娘』で、ナカヤマフェスタが歩んだドラマティックな競走馬人生を見事に描ききったカードイラストに、心の底から惹かれたんだ……。
ま、そんなに美しいイラストだったので、「自分で引きたいな……」と頑張った結果、最終的には、天井だったんですけどね(ちょっと、競馬や競走馬を美化するようなテキストが続いた為に、ちゃんとバランスを取るための照れ隠しとして書いておきたい大オチ)。
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